4.【ライブ当日】
時は2日後、2002年4月10日。
その日は朝からカンカン照りで暑い日だった。そもそも暑期なのだ、倒れるくらい暑い。どう自分を落ち着かせようとしてみても朝からわくわくして仕事にならない。恥ずかしながら遠足前日の小学生のような気分だ。会社は5時上がりの予定だがいつもなら気が付いたら6時くらいになってるくせに今日はなかなか5時にならない。出張者の行動予定表なんてどうでもエエっちゅうの。まー今日はやっつけ仕事でやっとくかぁー。
ようやく5時になった。運転手には帰らせて自分は渋滞を避けるためにスカイトレインで終点まで行く。終点からタクシーで20分くらいの所でTUKTAと待ち合わせの予定だった。しかしこれが終点から渋滞・渋滞・渋滞、やっべーバンコクってこんな北でも渋滞するんだっけー?6時に待ち合わせだったよなぁもう過ぎてるぜーと思っていたらTUKTAから催促の電話、タクシーの運転手に代われという。運ちゃんは何度か質問しながら理解したようだった、かと思いきや早速抜け道に入ってゆき、あれよあれよと言う間に待ち合わせの場所につく事が出来た。さすがというかやっぱ地元の人間にはかなわん。
待ち合わせの場所につくとすでに彼女は激怒モード。時間にルーズなタイ人が既に着いているのに遅れた私も悪いが何もそこまで怒らなくても・・・。今夜は彼女には仕事を休んでもらって付き合ってもらっているのであまり上手には出られないのだ、我慢我慢。
てな事で彼女の車に乗り換えた。ちなみにタイでは自動車はまだまだ高級品で自動車所有率は全人口比で13%である。少々脱線するがタイは人口比7割を占める農民優遇税制がひかれており農作物を運搬するピックアップトラックだけは3%の取得税しかかからないが乗用車になると「贅沢税」とでも言おうか33%課税になる、いわんや海外からの完成車輸入の最高級セダンやミニバンに至っては最高237%課税ケースもあり、何の為にお金を払っているのかよく分からない。何しろ日本円でも1000万〜2000万だ。単純な為替換算だとこうだが実際タイ人にとっては3000〜6000万円位の貨幣価値である。それでもたまに走っているんだからタイのお金持ちと言うのはホンマモンだ。なので現地で組み立てている独高級車なんか話にならないくらい日本からの輸入高級車の方が高額である。
さて、話を戻すと、TUKTAの車に乗って世間話などをしているうちにとうとう会場のImpact Arenaに着いたのだった。
Impact Arena Muang Thong Thani
収容人数12000人、24mの高さの天井と無数の音響パネルを持ち25のVIPルームと各ルームに付属する専用席を設けるバンコク有数の大ドーム。外タレのコンサートといえば大抵がここである。
駐車場が広すぎて周りに何も無いのが玉にキズだが、周辺交通機関へのアクセスも完備し、まさにこれぞコンサートホールという感じである。
さてそのImpactに着いてみると駐車場にまず置いてあったのが最近往年の名車を復活させた某自動車会社のアヴェニ○ル・ワゴンで、テールゲート一杯に「IN THE FLESH TOUR」のロゴと白いブロックの壁がシールで貼り付けてあった。あれでは後方確認は無理だと思うがその心意気、ご立派である。と同時にこんなにロジャーがすきなタイ人も居るんだなあと不思議な気がした。
そう、そもそもあれだけサバーイが大好きなタイ人にFLOYDやロジャーというのは私見だが感覚的に合わない。「狂気」なんてどの曲取ってみてもタイ人が共感するとはついぞ思えないのであり、私も詳しい訳ではないがタイの音楽シーンにもこの手のストーリー性のある哲学的なメッセージ重視のバンド/グループは殆どない。政治メッセージ色の強いグループも幾つかあるが数でいうと決して多いわけではないのだ。従って今回のライブの客層はファラン(タイ語で白人)がメインなのだろうと予想していた。
なのでこのようなイカにもタイ人の車で恐らく自作のロジャーステッカーでもって自車のバックウインドーを貼りつぶすなんてのは私にとっては極めて意外な光景だったのだ。
さてImpactの方へ歩いてゆくと屋外スピーカーから「ダイヤモンド」がかかっている。
いやー久々のFLOYDだー、意味も無くうれしくなってしまう。大体FLOYDからみのコンサートといえば唯一88年3月8日大阪城ホールのみの私である、ウキウキしない方がどうかしている。
他のバンドならともかくFLOYDは屋外で聞くことの可能性が極めて少ない為、こんなオープンエアで聞く機会に恵まれるとジーンとしてきてしまう。なにしろココんとこ全然FLOYD聴いてなかった
モンなー。さて、建物に近づいてゆくと居るわ居るわ豚T着たスタッフたち。いやここに来るまではホントに今日ロジャーのライブがバンコクであるのかよってくらいの感じだったが、会場に来ると雰囲気が全然違う!
まずFLOYD系のライブにつツキ物のオヤジ軍団(おいおい、お前もやがな)それからFLOY道に彷徨い込んでしまい以後どっぷりとハマってしまったと思しき若者たち。日本と圧倒的に違うのはファランばっかりと言うことだが、さっき車を見たようにタイ人も結構いる。どうやらタイ人がファランを連れてきているケースが多いようだ。それにコンサートの冠スポンサーがレンジ○ーバーであるせいか関係者の欧米人が一層ファラン度を上げている。暑期の夕暮れ、暑い屋外でビールを飲んでご機嫌なファランが大声でFLOYD談義をしていて傍から聴いていたがありきたりの会話だったのでガッカリした。
しかしよく考えたら75年何月何日の何処のライブがサイコーなんてオタクな会話はウラBBSの皆さんくらいなものであろう、と逆に納得してしまったのだった。
さて、会場に着こうがFLOYDが流れていようが未だ実際にチケットを手にしていない私は今ひとつ落ち着けない。「ホンマに入れんにゃろなー、これで見れずに帰れって言われたらロケット砲ブチ込むどー」などと考えていた(タイは袖の下社会なので軍に金を握らせれば陸軍の対戦車ロケット砲なんて簡単に手に入るらしい)のだが、それをやわらかくTUKTAに告げると「ココでちょっと待ってて」と言ってどこかに姿をくらましてしまった。
すると豚T着たキャンギャルがアンケートを書けと言って来たので、というかかわいいお姉ちゃんだったのでアンケートに答えてあげることにした。ロー○ーでも当たるんかいなと思いつつ(当たらへん当たらへん)クロスワードパズルを見ると、これが結構ちゃんとしたFLOYDクイズだった。「僕はFLOYDは炎からだから」なんて人には解けそうも無いレベルで今思い返せば一枚もらって来たら良かったと後悔しきりである。まぁ俺様にかかればチョロイもんよと答え始めたが、えーっとあれは何だっけ・・・なんて考えたりしているとお姉ちゃんはじれったくなってきたらしく「これを見せてあげるから写して良いですよ」などとカナリ馬鹿にした発言。ちょっと悲しくなりながらも自分の記憶力の無さを反省しつつさっさとパズルを埋めてお姉さんに手渡したのだった。このときこのライブのチラシ(添付1. 添付2.参照)をお姉さんに貰ったものの、この後何かが当たった等という事は当然無い。