5.【タイ袖の下社会】

 ビールを飲みながらタバコを吹かすこと数分、TUKTAが制服姿のおじさんを連れて戻ってきた。
 テム(「満ち足りた」と言うタイ語)さんというこの人が今回上手くやってくれるらしい。慣れないタイ語で挨拶し、今回のお礼を言うと共にお礼のお金を渡す。3000バーツ 日本円で約9000円弱だ。
 今回のFLOYDはアリーナで3000バーツ/人だった、激高だ。ちなみにタイのコンサートはかなり高く、アリーナで普通1500バーツもして、為替換算だと4500円弱だが日本国内の感覚でいうと15000円くらい払う感じだ。つまり今回のロジャーはアリーナ30000円くらいの価格価値である。
 国際レベルで行くとかなり割高なのだがターゲットカスタマーがファランなので少々高くても誰も文句は言わないのである。このあたりプロモーターはタイの会社なのにマーケットリサーチが良く出来てると感心する。まあしかしチケット高い分タイ人比率は余計に低くなってゆくのだが。上記のことを考えるとテムさんに渡したお金も2人分であれば全然高くないのである。

 さてそのテムさん、これがチケットだ、と言いながら紙切れにシート番号が書いてある紙切れを手渡してくれたのだが、これで本当に入場できるのか非常に不安な代物だった(添付3.参照)彼はそれをくれるとそそくさと仕事に戻っていった。まあこれでは入れるって言うんだからここは彼を信じるしかないと自分に言い聞かせ、次はさっきから気になっていた豚T入手に動き出した。
 豚ツアーの豚Tロジャーの極秘映像を見て以来、一度はあれを着てFLOYDのライブに行くのが夢だった。ところが!探しても探しても何処にも売ってないのである。よく見ると確かにお客さんは誰一人として豚Tとかパンフとかライブにツキ物のノベルティを持っていないし、豚T着てるのは確かにスタッフだけだ。散々探した挙句にとうとうあきらめた。Impactもデカすぎる、疲れた。ちっくしょーパンフのないコンサートなんてアリかよー、どうなっとるんじゃい。ちなみに後日ロジャーのバンコクライブレポートを他のサイトで見たが、その人はちゃんと豚Tを会場で買ったらしい、ますますショック大である。

 そんな事をしているうちに時間は7時半、あと30分でライブ開始だ。なのに周りの人たちはお気楽にビール飲んでベラベラしゃべっている、一体どうなってるんだと思っていたら突然人々がゲートに向かって集まりだした。屋外にかかっている曲が奇しくも「One of These Days」で何かが始まるというかブッチャーが登場しそうな雰囲気だった(何やねんそれ)。で我々もテムさんが居る入場ゲートの方に歩いていった。テムさんにチケットを見せると彼は他の警備員に「この人達はいいんだ」みたいな事をいって通してくれた。無事ゲート通過、ヨカッタ〜〜〜。

 さて無事に難関を突破した我々は席を探して歩き始めた、がTUKTAにはそんな気が毛頭無いらしく、どうやら誰かを探しているようだ。人なんかよりまず自分の席に行こうぜ、と言うと「ちょっとちょっと」とか言って全然席に行こうとしない。諦めてタバコでも吸っていると今度はちょいと恰幅のいい御婦人が現れた。またしても「インディー・ティー・ダイ・ルーチャック・クン・カップ」などとよくわからないタイ語で挨拶する。彼女はBEC−TER○(最後のは丸)というプロモーターの運営部門の偉いさんらしい。
 余談だがタイの女性の社会的地位は高く業務遂行能力も非常に優秀であり、関係会社を訪問すると女性役員や部長さんが多く居られる。さてその御婦人(名前は失念)とTUKTAが話し始めた、が全部早口のタイ語で内容はまーったく分からない。どうやら話はまとまったらしく女性はぷいっと歩き始めた。我々もそれに付いて行くのだが、TUKTAはぺロっと舌を出して「またやっちゃった」という仕草をして見せた。

 何をやらかしたのかと言うとプロモーター控え室みたいなのがあって、そこに入らせてくれる様、交渉したのだ。控え室と言ってもいわゆるVIPルームであり、隣の部屋は冠スポンサーのVIPルームだったくらいで目の前にはVIPルーム専用席があり、言ってみれば特等席である。コンサートホール見取り図で言えばSGのエリアだ(添付2.参照)。そのVIPルームに図々しくも「すみませーん、○○さんに入っていいって言われましたのでよろしくおねがいしまぁーす」と言って入っていったのである、だ、脱帽だ。なんちゅう根性じゃコイツ。中に居た人たちは若いスタッフの方達で妙にフレンドリーに迎えてくれた。まあ偉いさんの名前を出せば「通し」なのだろう、いかにもタイらしい上位者には右向け右の構図だ。いやウソです、ありがとうごぜえますだ。

 と言うことでようやく自分の席を確保することが出来たので、というかVIP専用席エリアであれば何処に座っても良いのだが、ほっこり落ち着いてライブ会場を見渡してみた。中からみても結構でかいドームだ。謳い文句の通り音響反射板が高い天井からいっぱい吊り下げられている。
 この席は2階席で、図を見て頂いても分かる通りかなり後ろの方でアリーナの最後端にあるPAよりずっと後ろだし、360度スピーカーよりも後ろ、つまりステージからはかなり遠い席だった。
 最近のFLOYDのライブだと初日は後ろの方で全体を見渡してライブ全体の構成をつかみ、次の日は前の方で燃えに燃えまくるのも良いのだが、ロジャーの場合はライブでショー的要素がどうとか特に聞いていなかったし実際のステージも、あの円形スクリーンが在る訳でもなしバリライトも在る訳でもなし、と言う事で「まあエエか」と独り納得していた。でもスピーカーより後ろって事は
360度効果は体感出来ないんだろうな、とちょっと寂しかった。

 で、その会場なのだがこれが全然埋まっていない、大体60%くらいだろうか。アリーナだってガラガラだ。やっぱタイ人ってライブでも時間どうりに来ないのかなあ、と本当にビックリした。
 そやかてアリーナ席って3000バーツ払とるんちゃうんかい。もう直ぐ8時やで、一体どないなってんねん。とまあ会場は良しとしてステージの方はどうなのかというと、普通スタッフがドラムを「ドンドンドンドンッ」と叩いてみたりして雰囲気が盛り上がってきたりするものだがこれまた一向にライブが始まる気配が無く、どうやらロードクルーも一気にタイ人化してしまったらしい。おそらくこれは30分くらい開演が遅れるな、とふんだら急にお腹が空いてきた。そういえば会場前でビールを2,3本飲んだだけで晩飯らしい晩飯は食べてなかった事に気がついた。

 「ちょっと飯でも食うか」と部屋を出ると売店でビールとつまみを買った。こういう所で売ってるのはタイでは大抵揚げ物だ、タイは海老がよく取れるので海老のフライが山ほど売っている。あとタイでは飲み物も直ぐにぬるくなってしまうのでビールですら氷を入れて飲むのが一般的だ。日本人や欧米人は「ビールに氷とは邪道な」と顔をしかめるがこの国ではこの飲み方が一番美味しいと思う。そもそも一般家庭に冷蔵庫が定着したのもつい最近で、それまでは近所で氷を買ってきて屋外に放置してあるコーラやビールに氷をぶち込んで一気に冷やして飲むというのが基本的な考え方だったのだ。
 それで、ちょっと腹をふくらまして席に戻ってきたのだが未だ始まる気配すらない。客も未だあんまり入ってないし、こりゃ当分始まんないかもなーなんて思っていたらやおらステージがあわただしくなって来た。おおーそろそろだぞーと期待に胸を膨らます。
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