7.【ライブ後半】
さて、そうこうしているうちに後半が始まりそうな雰囲気になってきた。オーディエンスも早くやれと言わんばかりに奇声を上げている。と、メンバーが出てきて用意をし始めた。何だか分からないが今回のライブはメンバーが出てきたら直ぐに演奏をはじめるみたいだ。という事でロジャーも直ぐにステージに出てきて、さっそく「BREATHE」を演り始めた。「BREATHE」。こう言ったゆっくりした感じの曲はライブの出だしに似つかわしいのではあるがいかんせん歌詞の内容が逆に全く似つかわしくなく中身を知っているディープなファンには居心地が悪い気もする。しかし最初のセットリストの様に「太陽賛歌」で始まるよりはよっぽどましだ。先に「賛歌」を演ったのはバンコクだけなのだろうか?
さて曲が終わったかと思うと、妙なつながり方で鐘が鳴り始めた。個人的な趣味でいうとこの後はかなり初期の「BREATHE」原曲で演っていたギターが掻き鳴るかっこいいパートを続けて欲しいのだが、もうその部分は恐らく30年以上演奏されていないことだろう。話はライブに戻って鐘の音だ、言わずと知れた「TIME」である。パーカッションがぽくぽく鳴っていると「Ticking away
・・」とロジャーが歌い始めてそのうちギターソロが始まった。お姉さんのやさしいコーラスがかぶって非常に素晴らしい曲になっているが、個人的には「鬱ツアー」チューンが一番好きでそれ以降のツアーはロジャーも含めて基本的にそれを踏襲していると思う。スクリーンには狂気のジャケットが映っていて泣かす演出だ。そのうち「REPRISE」になってゆくが「BREATHE」も「REPRISE」も何故か多感だった学生、いや高校生の頃を思い起こさせる。
するとあんまり「チーン・ガチャガチャ」が鳴らないうちから「ベーンベベベン・ベンベンベン」が始まった。
こうカタカナで書くと「21世紀の精神異常者」の出だしみたいだが、そうやない、そうやない。待ってました!のっけから効果音が少なかったとはいえこの曲がないと締まらない、「MONEY」だ。
オーディエンスも大喜び、サックスもちゃんと入ってるし。しかし、この曲はやっぱりデイブのあのダミ声で歌ってくれないと今ひとつピリッとしない気もするし、ギターも今までに無いちょいとブルージーな味付けがしてあったものの少々引っ張りというか頑張りが物足りない気がした。うむーちょっと残念だったなあー、せっかくの「MONEY」だったのに、しかし「鬱」ツアーといい「対」ツアーといい今回といい「ライブのMONEY」と言うのは期待値が大きいだけに、聴く人によって残念と思わせる事がまま有るようだ。
曲が終わってボンネットトラックの映像が映ったかと思うと直ぐに効果音が入り「EVERY STRANGER‘S EYES」が始まった。この曲はプロスに入ってる曲で個人的に馴染みが少ないのだが(すみません)、ライブでは透明感のあるコーラスが素晴らしい曲である。セピアトーンのネイティブアメリカンの映像がずーっと写っていたのが曲と相まって非常に印象的であった。その次は「PERFECT SENSE,Part1」「Part2」だ。最初の方の「Hold on soldier」の女性ボーカルが美しい。スクリーンには潜水艦のスコープから見た油田の映像、そしてそれが爆破される。ロジャーはステージを右へ左へ歩きながら歌っていた。この曲くらいになると観客も横着になってきてタバコを吸ったりしている奴等がいる。「禁煙だよなあ」とTUKTAに聞くと「あれはマリファナよ」との答え。PINK導師の北米ツアー記でもあったがタバコならダメでマリファナなら良いのか?と納得いかなかったものの、バンコクでもロジャーもしくはFLOYD聴きながらマリファナ吸う(正統派な?)奴がいるのかと思うとかなり驚いた。
お次は「勇気ある撤退」だ、元気なギターで始まるこの曲を演りはじめて直ぐにテムさんがやって来た。
「何だよ今忙しいんだよ、見りゃ分かるだろ」と言うような素振りをすると「いいからおいで」と言う感じで私の腕を引っ張る。「おい勘弁してくれよ、何処連れて行くんだよ、今良い所なんだよ」と日本語でぼやいていると踊り場に引きづり出されて1階につれて行かれた。TUKTAとテムさんはどんどん進んでゆく、「おいおい残りのライブどーすんだよ」と思っていると連れていかれた所は何とステージ脇だった。見取り図でいうとアリーナALの左端だ(添付A参照)、当然立ち見なのだがこの段に及ぶと前の方の観客は既にみんな総立ちなので特に問題はない。中にはこいつもマリファナきめてハイになっちゃったのかミョーにハイテンションで飛び跳ねて叫びまくっている奴もいる。ありゃりゃ、こりゃー良い所に連れて来てもらっちゃったぞテムさんコップンマークカップ!(ありがとう)テムさんもいい笑顔で返してくれる。
と言うことで「MIRACLE」からはステージ脇から見ることが出来るようになったので、俄然ヤル気が(何のやねん)増してきた。この曲は厳かなシンセの曲がある意味「原子心母」の様な雰囲気を醸し出しており個人的には好きな曲である。途中からギターが美しく響くフレーズもあり聴き応え充分だった。
オーディエンスもおとなしく静まり返って聴いていてステージを見つめていた。スクリーンには斜めからだったので良く分からなかったが特に何も映し出されてなく青い光がステージ全体を覆っていたように思う。
中でも「Miracle・・・」と歌う辺りではタイの敬愛のポーズ「ワイ」(タイ語で胸の前で両手を合せる事)をしていたのが非常に印象的であり神々しくさえあった。タイ人は感動して見ていた事だろう。ロジャーのこういう厳かな曲をライブと言う状況で聴けることに非常に感謝した。
次は「死滅遊戯」だ、ロジャーらしいフレーズ満載のこの曲は静かに、しかし確実にオーディエンスを捕らえていた。「ミラクル」からの流れで観客はずーっと神妙に聴いているのだが、ロジャーもそれだけタイ人にも「聴かせていた」という事なのだろう。ある意味この曲が今回の「ロジャー・ウォータース」のライブのクライマックスだった。特に私のようなFLOYDファンにもロジャー個人の存在感を強烈に示せた一曲だったと思う。ミュージシャンとオーディエンスの、この一体感が、この曲で出せた事が今回のロジャーのソロライブの素晴らしさを象徴している。ただしスクリーンには例の小猿が椅子に座って宇宙に漂っていて訳の分からないオブジェが漂っていたり戦没者名簿や誰か分からないお爺さんがずーっと写ったりで曲とライブ自体をブチ壊しにしており怒りと失望を禁じ得なかった。
さて、その次は「BRAIN DAMAGE」だ、本編はもうこの曲で終わりである。「キュィ〜ン」というギターが高音よりだったが女性コーラスと相まって全体的に相変わらずゆったりとした構成を見せている。
スクリーンの映像はまたしても訳のわからない廃ビル群が写っており何のことやらさっぱり?だったが周りの観客は最前列のせいか大ノリだ。私も負けじと大はしゃぎ。「ECLIPSE」に移ると一部の感極まった観客は大喜びで合唱している。そして最後はとんでもない観客たちの絶叫に包まれて終わったのであった。ロジャーが何か言っているが観客の叫び声で聞こえたもんじゃない、どうやらミュージシャン紹介をしているようだ。ギターがスノーウィー・ホワイトと言うのだけは分かったがそれ以外は良く聞き取れなかった。もう少し誰が何演奏してたのか聞き取りたかった、パンフレットもない訳だし、まぁそれは私の英語聞き取り能力にも拠るのだが。とにかくオーディエンスの狂乱の叫び声でライブは一旦終了したのであった。