9.【ライブ後】

 ライブが終わりオーディエンスがまだアンコールを叫んでいる間に会場の照明がついてしまい、ちょっとひどい仕打ちだなあと思った。私は少し会場に残り余韻を楽しむことにした。今日のライブでは特にスモークを焚いた訳でも花火を上げた訳でもないのに会場は妙にくもったい、タバコだかマリファナの所為だろう。タイ人はあまり未練が無いのかライブが終わったらさっさと帰っていくが、何人かのファランのおやじたちは私と同じようにいつまでもここから帰りたくないかのように会場をウロウロとしていた。
 ステージに目を移せば、まん前で見ても特に特徴の無いステージで敢えて言えばロジャー同様黒ずくめでスクリーンが左右に長いという事程度か。えらくあっさりしたステージだなあと改めて思ったのだった。

 そんな事を考えながら会場を後にする事にした。客もかなり出きってしまい既に会場には人はまばらだ。ラリぱっぱ兄ちゃん達と写真を撮ったりして少しの間 危ない人たちと楽しく過ごさせてもらった。
 そして最後の望みを託してパンフや豚Tを探して回ったがやはり無かった。仕方が無いのでライブ開始前にはImpact中に揚げてあった今回の「IN THE FLESH TOUR」のノボリを探す事にしたが、それも全部しまわれていて皆無。結局何も得られる事なくImpactを後にせざるを得なかった。

 駐車場に向かうとこれが超渋滞、時間はすでに23時過ぎだ。こりゃあ今日中には帰れないなと諦めその辺のベンチに座ってタバコでも吹かす事にした。TUKTAは「ちょっと」とか言ってお手洗いか何かに行ってしまった。するとえらく酔っ払ったタイ人のおっさんが話し掛けてきた。「あなた日本人ですか?」またえらく正確なイントネーションだ、びっくりしてそうだ、と日本語で答えたら「日本にもロジャーウォータースのファンは沢山居ますか?」と聞いてきた。「それはこっちの台詞だぜ」と思いつつもそれから日本語で今日のライブについて彼と10分くらい話し合った。
 彼はどちらかと言えば私同様FLOYDファンで、今日はどうしても「HELL」を演って欲しかったので残念だったそうだ。最後に聞いた所によると彼は「マヒドン大学」と言うタイでは非常に優秀な医療系の大学の助教授で日本への留学経験があり、なんと東大の修士・博士号を取っているそうだ。タイの富裕層には優秀な大学から日本の旧七帝大や欧米の超有名校で修士・博士号を取得した人がたまに居るが、お金さえ払えば取れる物でもないので凄いなあと感心してしまう。しかし基本的にストレスフリーな生活を好むタイ人でロジャーやFLOYDを聴こうという人たちには、この手のインテリ階級が殆どなのではないかという認識を改めて強くしつつImpactを後にしたのであった。
<<<<<BACK <MAIN> NEXT>>>>>